祖父、祖母、父と母、皆この世を去り、一番濃く血のつながった肉親であるおまえ。
父親違いとはいえ、じゃれあう子犬のように育った、二人きりの姉弟・・・だけどお前は、お前を死ぬほど愛していた母を裏切った。
お前の望む自由を得るために稼いだ大金は、お前を幸福にしたのか?自分勝手で、傲慢で、冷たい男、母を泣かせたお前が、私は、大嫌いだ!!嫌いで嫌いで、涙が出るほど嫌いなんだ。私が、(嫌いだ)と、叫び続けていると、心の中の海の底の砂の中から、何かが浮かび上がってくる。それは、ゆっくりと浮上しながら陽の光を浴びて燦然と輝いた。あわてて海に飛び込み、砂の中に押し戻そうとしても、ものすごい勢いであがってくる。よく見るとそれは、黄金の文字板で、「二人だけの姉弟(きょうだい)」と書かれている。しかも母のサインいりだ。おそらく母が、心をこめて私の中に投げ続けた小さな石つぶてが集まって、いつのまにかこんな文字板になったのだろう。記憶の中の幼い日、弟とふたり、布団の中で聞いていた母の声ー「この世で二人だけのきょうだいだから、いつも助けあってね。」と。事あるごとにつぶやいていた母。
だけども、海の上にぽっかりと浮かんだ文字板は、がさばって、カバンの中にも入りゃしない。家の中のどこにも飾れる場所さえないんだもの。
しかたなく、また海の上に浮かべておくことにした。私の心の海にプカプカと浮かんでいる、黄金の文字板・・・。
弟よ、生まれてきたお前を初めて見た日、幼い私は、小さな手をしっかり握りしめている事が不思議で、その指を一本、一本、こじ開けてみた。すると掌の中から埃の塊が、現われてびっくりしたものだ。今、お前が、その手で握りしめているものも、案外こんな埃の塊かもしれない。弟よ、いつかお前の欲望が色あせ、煩悩に別れをつげる時、二人手をつなぎ母の待つ国へ帰ろう。子供の頃のように無邪気に笑いながら、二人で母を喜ばそう。
弟よ、逢いもせず、語ることもないというのに、お前に私のこんな想いが伝わってい
ると確信できる。
たぶん目に見えない母の臍の緒を通り、お前の元に届くのだ。
これを愛と呼ばずに、なにを愛と呼ぶのだろう。これを愛と呼ばずになにを愛と呼べばいい
のだろう。私は、お前が嫌いだ。

